次々と新モデルが登場する重低音ヘッドホン。機能性や音質さらにファッション性、こだわりの一点を見つけるためにはいずれも捨てられない選定要素です。数ある製品の中からどれを選ぶべきか、そのポイントを抑えた上で名実ともに備えた厳選モデルをご紹介します。
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なぜ重低音ヘッドホンなの?
臨場感の追究
多くの方が一度は花火を観たことがあるはずだ。
「ドン」という大きな低音が心臓まで激しく響き、興奮を覚えたことがあるだろう。音楽においてもライブ会場に赴けば、低音が身体中に響き渡り「音を感じる」体験を得ることができる。
低周波数は減衰率が低く伝播性が高いため、ヘッドホンにおいてもここに重点を置くことで、上述の様な身体の髄に響く体験に近い感覚を得ることが出来る。残響やサラウンド効果といった面でも臨場感の定義はなされるが、振動で感じられるような類の「迫力・臨場感」を得るなら重低音ヘッドホンがうってつけだ。
重低音ヘッドホンが向いているシーン
低音遍重でリアリティが増す場合
映画感でアクション映画の爆破シーンを観ているとき、轟音の表現としてどのくらい低音が強調されているだろうか。
クラブでEDMを聴くとき、力強いキックはハードロックやジャズのそれと比べてどうだろうか。
重低音ヘッドホンが向いているのは元のサウンドにおいても低音がファットであり、もしそれが抜け落ちると途端に現実味のない音になってしまう場合だ。
低音の薄い爆破音やEDMサウンドが全くリアリティを欠くのは想像に難くない。
なお原音が変わってしまったとしても、リアリティが増すのであれば、これも重低音ヘッドホンが向いているシーンと言える。このリアリティの捉え方は個人の感覚に依存する。
重低音ヘッドホンが不向きなシーン
正確な音を把握する必要がある場合
重低音ヘッドホンは勿論万能ではなく、向き不向きがある。
音楽制作シーンなどでオリジナルの音に近いサウンドを聴きたい場合は、各音域がフラットに構成されたモニター用ヘッドホンを選ぶべきだろう。
様々なジャンルの音楽を聴く場合
ピアノや弦楽器といった中高域楽器を軸とした音楽を聴くのであれば全く方向性が違ってくる。重低音ヘッドホンでは、マスタリングエンジニアが懸命に削ぎ落とした低域をわざわざブーストして本来のベストなサウンドを台無しにしてしまう可能性がある。
あらゆるジャンルを気持ちよく聴くことができるといった重低音ヘッドホンのレビューを見かけることがあるが、実際のところクラシックやロックを聴くには少々厳しいものがある。重低音ヘッドホンを購入する際は、今一度利用シーンを見直してみよう。
おすすめの重低音ヘッドホン
MASTER&DYNAMIC MH40
目にした瞬間に惹き込まれる洗練されたデザイン― MASTER&DYNAMICはニューヨークに拠点を置くオーディオメーカーで、次のような哲学をもっている。
極めるということは、ダイナミックなアプローチが必要な果てなき探求であると我々は信じている。
音は触媒であり、強力なクリエイティビティの要素である。
我々はヘッドホンを、現代における熟考の冠、すなわち心を集中させインスピレーションをもたらしてくれるツールだと捉えている。我々はクリエイティブなマインドのために、オーディオツールを生み出していく。
原文: www.masterdynamic.com
この哲学がまさに体現されたかのような素晴らしいデザインをMH40は備えている。
細部にも一切の妥協を感じない。
イヤーカップは高級感溢れるアルミ製ボディで、イヤーパッドはラムスキンを採用し柔らかなフィット感と高い遮音性をもたらしてくれる。
またヘッドバンドは牛皮革(ヘビーグレイン・カウハイド)とこだわりと感じる。
音色は、ラウドな低音ではなく温かみのある肉厚な低音という印象だ。
低域がしっかりと深くまで表現されるが、中域高域を潰すことはない。
全体的にウォーミーでボーカルの伸びが非常に優れている。
密閉型とは思えぬほどの広い音場感を与えてくれるだろう。
ただそのウォーミーなキャラクターゆえ、キレ・ラウドネスを求めるタイプのロックサウンドや、ダブステップなどを中心に聴くユーザーには少し物足りないかもしれない。ジャンルを問わず厚みのある音を体感されたい方はぜひ一度手にしていただきたい。
MH40とは別に折りたたみ機構など採用したポータブルユース機のMH30も、気になる方は併せてチェックしてみるといいだろう。
型式:ダイナミック密閉型
重量:360g ドライバー口径:φ45mmネオジウムドライバー
インピーダンス:32Ω
付属:1.25mケーブル(iPhone用マイクリモコン付き)、2mケーブル、3.5mm-6.3mm変換プラグ、キャンバスポーチ、ケーブル用レザーボックス
SONY(ソニー) MDR-XB950
SONYで定番のSONY EXTRA BASSシリーズの代表モデルだ。
バージョンアップを重ねてよりスタイリッシュなデザインとなり、シンプルでかつ高級感の溢れる仕上がりとなっている。
さらに立体縫製イヤーパッドに包まれた厚みのある低反撥ウレタンフォームと、厚みのあるヘッドバンドクッションを採用し装着感も抜群だ。
音質面ではベースブースターを搭載することで鼓膜までの機密を高め、イヤーカップに設けたダクトによる低域の振動板の動作が最適化されている。
これまでのモデルよりも低音にピークが近づき、深い低音の中から正確なリズムを照らし出し、納得のグルーヴ感を与えてくれる。
音の性格としては、良く言えば丸くファット、悪く言えばこもりがちだ。
低域は比較的ふくらみのあるブーストがなされており、中高域音の伸びは得意ではないらしく、その点を重視される方は注意されたい。
しかし同価格帯モデルの中でこれだけの重低音サウンドをどの機種が提供してくれるだろうか。
そのサウンドに対して非常に高いコストパフォーマンスを発揮している点は言うまでもなく、ソリッドなデザイン性にリーズナブルなプライスを考慮すれば、これから初めて重低音ヘッドホンを手にするエントリーユーザーにはもちろん、次の1機を手にする方にもおすすめしたい失敗のないモデルと言える。
型式: ダイナミック密閉型
ドライバー口径: φ40mm
再生周波数帯域: 3~28000Hz
最大入力: 1000mW
インピーダンス: 24Ω
出力音圧レベル(感度): 106dB/mW
プラグ: 金メッキL型ステレオミニプラグ
コード: 約1.2m(Y型)
質量: 約245g(ケーブル含まず)
付属品: 保証書、取扱説明書
SENNHEISER (ゼンハイザー)HD25-1 II
20年以上のロングセラーを誇るHD25シリーズの主力モデルであり、音圧感度120dBという別世界に誘ってくれる、名実ともに備わったゼンハイザーの名機だ。
「轟音」とも呼べる迫力のサウンドを聴いて意外なのは全音域がクリアに聴こえることだ。 特に中低域を得意としており、圧倒的な音圧で締りの良いキレあるグルーヴを生み出してくれる。
キックやベース、テクノでのブリブリ系ベースなどが鋭く響く。
また重低音ヘッドホンの中には低域を単純に膨らませ「ボワボワ」と表現されるような音の性格をもつモデルが散見されるが、本機は高い音圧感度をもってしても繊細さを失っておらずプロフェッショナルのモニター使用に耐える高い解像度を備えている。
ダブステップ、エレクトロ、ハウスなど、キレのある重低音が好きな方は迷わず本機を選ばれたい。
外観・質感にあまり高級感がないのが玉に瑕だが、脱線・断線が少なく頑丈に設計されている点も高評価だ。
型式 : ダイナミック・密閉型
音圧レベル : 120dB
周波数特性 : 16~22,000Hz
インピーダンス : 70Ω
接続ケーブル : ケーブル長1.5m(片だし・右側)プロの激しい使用に耐える単線スチールケーブル。3.5mmステレオミニプラグ(L型)
質量 : 約165g(ケーブル含む)
付属品 : 6.3mm変換アダプター、キャリングポーチ、交換用べロアパッド
DENON (デノン)AH-D600EM
ドライバーを柔らかいエッジで支えるフリーエッジ構造を採用。最低共振周波数を下げることが可能で、無理なく低域サウンドを実現している。ナノファイバー振動板を搭載し50mm大型ドライバーを有している。
またイヤーカップには、通常プラスティックより高強度なGFRP(Glass Fiber Reinforced Plastic)を採用しているため、共振が少なく優れた音響特性が生まれる。 イヤーパッドは、低反発素材で構成されており、デノン独自形状の五角形をしている。耳の形にフィットすることで長時間のリスニングでも疲れを感じにくい設計だ。
付属のOFC(無酸素銅)ケーブルは、アウトドアなどポータブル使用に最適なiPhone対応リモコン付1.3mタイプと、室内向け3.0mの2種類があることも嬉しい。
肝心の音質だが、フロアに広がるような厚みのある低音が心地よい。中高域の透明感はやはりデノンらしくいい抜け感をしており、総合的にもデノンらしく正確性の高い音像をしている。
ただ音圧はそこまで強くはないので、ビリビリと轟音のような強い重低音を望む場合はあまり向いていない。
代わりにジャンルを問わないリスニングには最適だ。
つけ心地も申し分なく、多様なハイレゾ音源をリッチな低音とともに楽しみたい方にはぜひおすすめしたいモデルだ。
形式 / ダイナミック/密閉型
ドライバー / Φ50mm フリーエッジ ナノファイバー振動板ドライバー
出力音圧レベル / 108 dB/mW
再生周波数帯域 / 5-45,000 Hz
最大入力 / 1800mW
インピーダンス / 25Ω
質量(コード含まず) / 365g
コード / OFC 着脱式 Y型(3m)、iPhone Remote対応着脱式 Y型 (1.3m) プラグ / 金メッキステレオミニプラグ
付属品 / キャリングケース、金メッキ標準変換プラグ
Beats by Dr.Dre Pro
海外で一躍大人気となったBeatsブランドのヘッドホン。
元々製造・デザインをモンスターケーブル(Monster Cable Products, Inc.)に委託し製作されたヘッドホンだ。
モンスターケーブルはエレキギタリストやオーディオファンには馴染み深い高品質なオーディオケーブルメーカーである。
特に若者を中心にブームを巻き起こしており、スタイリッシュでソリッドなデザインが大変魅力的だ。
DJユースも考慮されており、堅牢な作りと、折りたたみ式の機構を採用しておりポータビリティにも優れた、まさに普段使いに心強いモデルとなっている。
音色だが、ライブやスタジオの臨場感・ラウドネスを体現することをイメージして作られているため、キックやベースのアタックにピークが置かれ、パワフルな重低音で強くビートを刻む。
中高域は若干の粗があるが、気にならないほどに重低音が力強い。こうした点がライブ感の現れなのかもしれない。
高解像度の中域高域は得意でないため聴く曲をとても選ぶブランドである。
まずポップス、ジャズ、クラシックなどは確実に除外される。ハウスやテクノ、トランスに向いているとも言い難い。
EDMやダブステップのリスナーで、ストリートファッションのデザイン性を取り入れたい方にはおすすめだ。
ポータビリティやbeatsのスタイリッシュなデザイン性を求めないのであれば、荒ぶる低音でライブ感も味わえる上述のSENNHEISER HD25-1 IIもぜひ検討されたい。
サウンドエンジニアと共に開発することで歪みのない音質を実現させた、まさしく”プロフェッショナル”な一品。 オールブラックの特別モデルでbeats史上最高の音質を。
軽量ながらも耐久性に優れ、回転するイヤーカップでDJプレイにも最適。
イヤーパッドには快適で耳にやさしいフラシ天を使用。
取り外して水洗いも可能で常に清潔に保てます。
絡み防止のカールコード。
独自のデュアル入出力ケーブルポート。一方に差し込むと、もう一方は自動的に出力モードに切り替わるので複数のヘッドフォンをデイジーチューン接続できます。
重低音ヘッドホンってどうやって選ぶの?
密閉型と開放型
比較点 | 相関関係 | 密閉型 | 開放型 |
---|---|---|---|
低域レスポンス | 強 | 非常に良い | 良い |
音場 | 強 | 平均的 | 非常に良い |
音漏れ | 強 | 良い | 悪い |
ノイズ遮断性 | 強 | 良い | 悪い |
快適性 | 弱 | 良い | 非常に良い |
密閉型(クローズド)
密閉型ヘッドホンは音を増幅する部分であるハウジング(イヤーカップ)に穴がないものを指す。ハウジングが共鳴箱の役割を果たし低音を増幅させるため、重低音の表現力は開放型より優れている。
弦楽器を見てわかる通り、音の増幅には共鳴箱が必要で、高音から低音になるほどそのサイズは大きいものが要求される。ヘッドホンにおいてもハウジングの密閉空間は重要な増幅機構の役割を果たすのだ。
またハウジングが閉じていることで音漏れも小さく、環境ノイズの遮音性も高いため、インドア/アウトドアの両方で使用するのに最適だ。ノイズキャンセリング機構を搭載したヘッドホンもこの密閉型に多く、騒音環境であれ静音環境であれ、深いベースレンジを感じながら没入感を得ることが出来る。
開放型(オープンエアー)
開放型ヘッドホンは一般的にハウジングに穴が空いており、メッシュやグリルでカバリングされている。密閉型と異なり、ドライバー(音の出る機構)から出力された音が、反射することなく空気を伝搬して忠実に耳に届くため、音の抜けが良くなり広い音場を感じることが出来る。
頭上のヘッドホンからというよりは、部屋に設置したスピーカーからの音を聴いている感覚に近い、自然な音場と没入感が最大の魅力だ。その代わり、音漏れは大きく、環境ノイズも許してしまうことになるため、室内での利用が主な用途となる。室内用ハイエンドモデルも多くはこの開放型ヘッドホンだ。
なお軽く蒸れにくいといった装着面での特性もあるため、夏場や長時間のリスニングにも向いている点も覚えておきたい。
一方でハウジングでの低音の増幅が出来ないため、強い重低音はあまり期待できない。この点は広い音場による臨場感とトレードオフだろう。
なおハイエンドモデルでは大型ドライバーで弱点を克服しているものもある。
音質
一重に音質と言っても、その切り口と好みは人それぞれだ。重低音ヘッドホンにおいては、特に低域の表現は重要視されるだろう。ここでは幾つか選定のために注視したいポイントを紹介する。
解像度
細かな音をクリアに聴くことが出来るかはとても重要だ。
過度な低域のブーストは、時に必要な中高域音を潰してしまう。
特にサイン波やランプ波をベースにしたハイビートなシンセサウンドなどは、アタックが聴き取りづらく、ビート感が出ないこともしばしば。
エレクトロやテクノミュージックを聴く際は死活問題となる。
試聴の機会があれば低音だけでなく中高域の明瞭さも、聞き慣れた音楽で確認しておくといい。
確認しやすい楽曲としてはunderworldのRezなどが挙げられる。
こと重低音ヘッドホンにおいては、低域の粒立ちこそ好みが出てくるだろう。
低域全体に厚みのある音が好みか、キックやベースのアタックに重点を置くかで選ぶヘッドホンも変わってくる。
EDMが好みの方はビート感が強く感じられるアタック重視のヘッドホンを選ばれたい。100〜120Hz付近が強いヘッドホンがEDM向きだろう。ちょうどベースと帯域が競合する150Hz以下あたりを全体的にフラットにブーストしまっている重低音ヘッドホンは、映画鑑賞などはさておきあまり音楽向きでないと思っていい。
音圧感度
のスペックに「dB」単位で示される音圧感度という項目がある。一般的なヘッドホンは90dB~110dB前後だ。平たく言えば音圧感度が高いほど音は大きくなる。厳密にはここからさらにインピーダンス(≒抵抗)の大小に最終的な音の大きさが変わってくる。ハイエンドモデルは低音圧感度でハイインピーダンスであることが多いが、その場合に音量を出すためにはヘッドホンアンプが必要となってくる。
ポータブルデバイスでボリュームが欲しい場合は、音圧感度が高く、インピーダンスは高くないヘッドホンを選ばれたい。でなければデバイス側で大きいサウンド出力が必要となり、あっという間に電池が切れてしまう。
フィット感
イヤーカップの形状
重低音ヘッドホンはベースレスポンスを最大限に活かすなどの特性から、ハウジングやドライバーが大きいサイズとなる傾向がある。必然的に流通量の多い形状は耳全体を多い隠すサーカムオーラル型(オーバーイヤー型)の密閉型ヘッドホンとなる。
注意されたいのは眼鏡を着用しながら長時間装着した場合で、ヘッドホンの側圧でこめかみへ負担をかけてしまう恐れがある。
心配であれば、耳を包み込まず乗せるだけのオンイヤー型という形状もあるので候補に含めてみるといいだろう。
イヤーパッド
よく見かけるイヤーパッド素材として人工皮革が挙げられる。こだわりたい方にはレザーのモデルを試してみてもよいだろう。これらは遮音性に優れており、メーカーによっては交換用イヤーパッドも別売りされているので、長く使い続けたい方は、その点も情報を確認されたい。
ただ遮音性が高いとはつまり蒸れやすいということでもあり、夏場の使用で急激に劣化が進む恐れもある。イヤーパッドがボロボロに剥がれてしまう経験をしたことがある方も多いはずだ。
そんな際は、汎用的なイヤーパッドカバーが販売されており、メッシュ系素材やベロア素材といった様々な製品が流通している。イヤーパッドの劣化を防ぎながら蒸れを解消する優れものだ。遮音性が若干落ちるものの、ヘッドホンの寿命を伸ばしつつ自分なりのカスタマイズもできるため、併せて入手を検討するとよいだろう。
最後に
ここまで重低音ヘッドホンの選び方から、機能面や音質、コストパフォーマンスなど、様々な視点でラインナップを紹介してきた。
シンプルで洗練された飽きのこないデザインのプロダクトにフォーカスをしたのは、それこそが音楽の趣向の拡がりに制限をかけず、ずっと使っていけるパートナーとなりえるためだ。
本記事が、ファッションとして、インスピレーションのトリガーとして、音のある生活を支える自分らしいヘッドホンを見つける助けになれば幸いだ。