ポータブルヘッドホンアンプ(ポタアン)は利用していますか?Bluetooth対応や小型化が進み身近となったポタアンの音質向上効果は絶大です。今回はそのメリットや選び方、比較ポイントを押さえながらおすすめのポタアンをご紹介します。
ポタアンとは?
ポタアンとはポータブルヘッドホンアンプの略称で、ヘッドホンアンプを外に持ち運べるように小型化したものだ。
今回はポタアンに絞って紹介するが、据え置き型についても知りたい方は別記事「ポータブル/据え置きヘッドホンアンプのおすすめモデル6選」も参考にされたい。
なおポタアンはスピーカー用プリメインアンプとは異なり、出力はヘッドホン向けに小さく設計されてある。
利用シーンとして、再生機側の出力が弱く音が小さいときに、信号を増幅させ音量を上げたい場合に使う。そして、再生機に代わって電気信号の変換や増幅といった処理を行わせたい場合に使う。
ポタアンの効果
高品位なヘッドホンを利用しても、想像よりも音質が悪いとき、原因はヘッドホンアンプを使用せずヘッドホンと再生機を直挿しで使っていることにあるかもしれない。
ヘッドホンアンプを使用すれば次のようなメリットが得られ、直挿し状態の音質から大きな飛躍が期待できる。
音量アップ
ハイエンドなヘッドホンの多くは、繊細な音の変化を捉えられるようにインピーダンスが大きくなっており、音量を出すには電力消費も大きくなる傾向にある。
スマホに安価なヘッドホン・イヤホンを直挿ししていた人が、ハイエンドヘッドホンに切り替えると、音量の小ささに驚くことだろう。これまでと同じ音量で聴くためにはスマホ側の音量を上げる、つまり多くの電池を消費する必要が出て来る。
そんなときにポタアンがあればは、ヘッドホンが持つ本来の鳴りを引き出すに足る電力供給を行ってくれる。聴き比べるとこれまでいかにヘッドホンを鳴らしきれていなかったのか気付かされることだろう。
高音質化
アンプ改善
先程述べたように、ヘッドホン直挿しで、音楽プレーヤー側で音量を上げて無理矢理にヘッドホンの鳴らす方法には大きな問題がある。
そもそもポータブル音楽プレーヤーの内蔵アンプは最低限の音量を確保する目的で省電力設計されており、オーディオ機器としてはあまりに不十分で、音量を上げれば容易にノイズが乗る。ヘッドホン直挿しで音量を上げる行為は、ノイズの音量を上げる行為に外ならない。
ポタアンは、貧弱なポータブルプレーヤー内蔵アンプに取って代わり、ノイズ対策や音楽再生に適したチューニングを施した高品質な信号増幅を行うため、音質を格段に良くしてくれる。
DACによる音質改善
デジタルオーディオプレーヤーで内蔵DACでデジタル信号をアナログ変換する際、音質はその内蔵DACの性能に依存する。
例えばFLAC形式などのハイレゾ音源をiPhoneで再生しても、イヤホンジャックからは劣化したサウンドしか出力できない。
そこでポータブル機内蔵DACは使用せず、ポタアン側でデジタル・アナログ変換を行うと、多くのDAC搭載型ヘッドホンアンプが、高音質でのデジタル・アナログ変換に対応しており、信号変換時の音質劣化を抑えることが出来る。
こうしたメリットの多いポタアンだが様々なモデルが流通しているので、なかでもおすすめのものを紹介していこう。
おすすめのポタアン
【おすすめのポタアン】高音質モデル
CHORD Mojo
ポタアンとしては究極系とも言える同社の「Hugo」の後発。
Hugoの強みを継承しつつ小型化を遂げ、Mojoは数あるポタアンの中でも人気作となっている。
さらにDACに関してはHugoを上回るPCM32bit/768kHz、DSD256までの対応で超高音質化に成功している。
性能・接続性どれをとっても優れたMojoは、間違いないポタアンを手にしたい方におすすめだ。
OPPO HA-2SE
高性能な384kHz/32bit、DSD12.2MHz対応DAC搭載ののハイレゾ対応ポタアン。
モバイルバッテリーとしても使え、スリムなボディでスマホとの相性がとてもよい。
前作よりも性能が上がりコストパフォーマンスは上がっている。いま勢いのあるOPPOのHA-2SEを今のうち手に入れておこう。
JVC KENWOOD SU-AX01
JVCのフルバランス構成のポタアン。
フルバランス構成のアナログ回路を搭載しており、解像度の高さと音場感に優れている。
大電流トランジスタを使用し大型ヘッドホンでも緻密でパワフルなサウンドを楽しめる。
イン/アウトが両方前面にあり、鞄の中でもケーブルを傷めにくい、エクステリアデザインにもJVCらしいこだわりが見える一品だ。
最新の384kHz/32bit、DSD11.2MHzハイレゾ音源再生に対応している。
多様な接続方式にも対応しており、プレミアムモデルとして作り込まれた本作はポータブルシーンだけでも宅内でも使いたくなるおすすめの機種だ。
FiiO A5
FiiO A5は300Ω出力の、あらゆるヘッドホンを鳴らすハイパワーポタアンだ。
スリムなボディで、ポータブル機と重ねてスタイリッシュに使える。
ハイレゾ対応で高出力、かつコストパフォーマンスの高いモデルだ。
DACは内蔵していないので、スマホには不向き。高音質なDAPと接続して使おう。
SONY PHA-2A
JEITA統一規格の4.4mmバランス接続に対応した初めてのポタアン。
PCMは192kHz/32bit、DSDは5.6MHzまで対応し高性能を追究した本モデルは、ウォークマンやスマホでリッチなオーディオを楽しむ最適解となるだろう。
【おすすめのポタアン】スマホ特化/小型モデル
COZOY TAKT
COZOYのTAKT(タクト)はiPhone専用の超小型設計のポタアンだ。シンプルなデザインで、ポケットから出ていてもスタイリッシュ。
iPhone7でイヤホンジャックがなくなり困っていた方も、TAKTがあればお気に入りのイヤホンを接続できるだけでなく、iPhoneの元の音とは比較にならない程高音質化が図れるだろう。
リモコンも搭載しているので、これ1つでiPhoneを一気にグレードアップできる。
audioquest DRAGONFLY Red
もう1点、USBスティック型のポタアンを紹介したい。
オーディオクエスト社の販売するDRAGONFLYシリーズのRedモデルだ(BlackはDACチップが異なり出力も小さい)。
出力は2.1Vとこのサイズではかなり大きい。ハイインピーダンスの高級ヘッドホンもしっかりと鳴らしてくれるはずだ。
小さめのUSBスティックサイズの超小型設計で、ヘッドホンを鳴らしたいという方にはDRAGONFLY Redをおすすめする。
そこまでインピーダンスの高くないイヤホンなどの利用で、まずコンパクトに音質改善をしたい場合は、次に紹介するM-AUDIO Micro DACか、このDRAGONFLYのBlackモデルを選ぶとよいだろう。
M-AUDIO MICRO DAC 24/192
DTMが好きな人なら誰でも知っているM-AUDIO。オーディオインターフェースやキーボードの製作を昔から得意としており、USB DACの開発はまさに同ブランドのお家芸なのだ。
今回ご紹介する「MICRO DAC」は、iPhoneやノートPCでのポータブルユースを想定して、超小型設計されたUSB DACだ。
殆どUSBメモリーと変わらない大きさであるため、鞄のポケットやポーチに入れても邪魔にならない。
このサイズでなんと24bit/192kHzのハイレゾ音源再生に対応している。
ヘッドホン端子に加え、ヘッドホン対応光デジタル端子も搭載しているので、2台のヘッドホンで音楽を共有したり、外部のオーディオ機器へ光デジタル出力を行うこともできる。
そして常識を打ち破る驚くべき低価格でこの機能を実現している。これからポータブルシーンでハイレゾを楽しみたい方、まず本機を手にしてみることをおすすめしたい。
なおiPhoneに接続する場合は、別途Lightning-USB変換アダプタを入手しよう。Androidの場合はUSBOTGケーブルを用意しよう。
【おすすめのポタアン】ワイヤレスモデル
Astell&Kern XHA-9000
クリップ型で超小型の高音質ワイヤレスポタアンだ。
ワイヤレスながら24bit高音質再生を可能とし、さらにバランス接続まで対応したこだわりのモデル。
apt-X HD対応プレーヤーで高音質でストレスフリーなリスニングを楽しもう。
ポタアンの役割
ポータブルデジタルオーディオプレーヤー(DAP)からデジタル信号を受けて、ポタアンは「DAC」の役割をもつ。
DAC(ダック)とは、Digital Analog Converter(デジタル-アナログ変換回路)の略称で、デジタル電気信号をアナログ電気信号に変化する機構のことを指す。
イヤホンやスピーカーはアナログ電気信号によって振動を起こし作動するため、DAPで出力したデジタル電気信号は、途中でアナログ電気信号に変換しなければ音声を聴くことは出来ない。
スマホなどもイヤホンジャックを備えているが、省電力化を優先したDACによるアナログ信号なのでこれは音質は悪い。
そこで次の様にDAPの代わりにポタアン側で信号制御を行い音質改善を行っている。
- DAP側はアナログ変換せず、デジタル音楽データをポタアンに伝送
- ポタアンに搭載されたDACでデジタル信号をアナログ変換
- それをさらにポタアンでアナログ電気信号増幅を行う
(1)の通りプレーヤーは単純にデジタルデータを送信するだけで、内蔵DAC/アンプは使用しないため、音質はほぼ完全にポタアンの性能に依存する。つまり音質を外部側で自由にコントロールできるということになる。
なお据え置き型のプレーヤーやアンプについては全く別の議論になるのでここでは割愛したい。
ポタアンの選び方
ここでは初心者の方にも分かるように、どのような基準で選んで行けばよいか、基礎知識を補いつつ説明していきたい。
接続方式で選ぶ
ポタアンでは次のような接続方式を取るか確認しておくとよいだろう。
USB端子
USB端子は多くのポタアンが搭載している。変換アダプタを使って多様な機器と接続できる。
USB端子があると複数種のDAPの利用や、DAPの買い替えがあっても安心だ。
microUSB端子
Androidスマホを始めとしたモバイルデバイスの多くに、microUSB端子が搭載されており、そうした機器と接続するために有効だ。
Lightning端子
iPhone/iPad/iPodtouchに搭載されている端子だ。
これらのAppleデバイスと接続したい場合には、予めLightning接続を想定してこの端子を搭載しているものを選ぶとシンプルに収まるだろう。
Bluetoothなどワイヤレス
ここ最近でワイヤレス接続型のポタアンが増えてきた。
ポタアンをポケットやカバンに入れたまま、ケーブルを気にすることなくスマホやDAP側で選曲できるので利便性が飛躍的に高まっている。対応機器は徐々に増えている。
これまでバンドでポタアンを固定して重くなったポタアンを操作し疲れを感じていた方や、ケーブルがごちゃごちゃして不便だった方は、ワイヤレスという選択は有効かもしれない。
LINE入力
DAP側のDACで生成したアナログ信号を、DAP側アンプでは増幅せずにそのまま出力し、あるいはアナログ機器の信号をそのまま出力し、それを受けるための入力ポートだ。
ポタアン側ではDACでなくアンプのみ利用することになる。優先度は低いが汎用性を求めたり実際にアナログ信号を受けたい場面があるのであればLINE入力対応機器を選ぶとよいだろう。
光デジタル端子
デジタル信号を低減衰率、低レイテンシでほぼ劣化のない状態で伝送できる方式だ。
PS3/PS4や最近の据え置き型オーディオプレーヤー、また高級なPCのサウンドボードには搭載されている。
あまりポータブル機で装備しているものはなく、またデバイス間接続は光ファイバーを使うので、外では使い物にならないので、ポタアンにおいては優先度は低い。
詳細は割愛するが光ファイバーは文字通り光を利用する。光は直進しかできないためケーブルが曲がるだけで伝送性能が大きく下がり、ポータブルには完全に向かないのだ。
音質で選ぶ
ハイレゾ対応か
DACで情報量の多い音源データを変換できるかによってハイレゾ対応かどうかが変わってくる。具体的にはサンプリング周波数が96kHz以上、量子化ビット数が24bit以上に対応していると嬉しい。
ワイヤレスの音質は?
ワイヤレスの主流はBluetoothだがその場合は「コーデック」に注意しよう。
親機であるDAPから、子機であるポタアンへBluetoothでデータを転送する際、データの圧縮が行われている。
その圧縮方式をコーデックと呼び、コーデックによって圧縮率・遅延時間が異なり、標準のSBCは圧縮率も高く音質が悪い。
どんなに子機側で高音質コーデックに対応していても、親機側が準拠していなければ使用できないので、しっかりと親機のスペックも再確認しよう。
最近はapt-X HDというハイレゾ相当音質のコーデック対応機器が増えている。できるだけ高音質のものを選ぼう。(apt-X HDは大衆向けDAP・スマホでは普及率が低い)
コーデック | 内容 |
---|---|
AAC | iTunesでお馴染みの高音質圧縮方式。Apple社製品は勿論全て対応している。Apple以外でも対応している機器は多い。 |
apt-X | CD音源に近い音質での転送が可能なコーデック。英CSR社開発。 |
apt-X HD | apt-Xのハイレゾ対応版。英CSRが新開発。対応機器が増えつつある。 |
LDAC | 96kHz/24bitのハイレゾ音源対応。ソニーが開発し、ソニー機器同士限定の規格。 |
SBC | Bluetoothの規格上で必須項目なので、全ての機器に対応しているが、圧縮率が高く音質は悪い。 |
▲ Bluetooth対応コーデック一覧
バランス接続対応か
ここ最近でバランス接続が定着し、対応するヘッドホンやポタアン、ケーブルは多くなった。多少コストは上がるが音質を求めるなら対応ポタアンを手に入れてバランス接続環境を整えるのもよいだろう。
サイズで選ぶ
普段持ち運ぶことが前提となり、夏場などでも邪魔にならないよう、サイズ・重量ともにしっかり見ておきたい。
特にサイズについてだが、iPhoneなどスマホユーザー向けに、あえてスマホに近しいサイズ感でデザインされているポタアンも存在し、持ち運びの際にバンドで固定すれば邪魔にならない。
最近ではさらに小型のぶら下げても問題ない小型・軽量型のモデルも多く登場している。
実際の持ち運びイメージをもって、どの程度なら実用性があるか自身の許容範囲を考えておこう。
バッテリー駆動かどうか
バッテリーを有するポタアンはDAP側の電力消費を抑え長時間リスニングに最適だ。サイズと比例する傾向にあるが大容量バッテリーを有するモデルも多い。
DAPからの電力供給を必要とするバッテリー非搭載のものは、一般的に小型で軽い。
どちらを選ぶかは自身のリスニング時間や充電環境がどれくらいあるかによって決めていただきたい。
最後に
いかがだろうか。スマホを含むデジタルオーディオプレーヤーを使用している方は、ヘッドホンアンプを手にして劇的な音の変化を体感してほしい。
なお本筋とは異なるので割愛したが、DTMerやDJの方は、モバイルデバイスの音楽系アプリの出力を高音質化して取り込むという使い方もできるので、プレイや作曲の幅が広がるはずだ。
音楽を愛する方は、ポタアンを手にして必ず損はないので、これを機会に自分の耳にもっとも馴染む1台を見つけてほしい。