これからDTMを始める方向けに失敗のない定番製品をご紹介し、選び方まで解説します。また接続方法や設置の仕方、専門用語など素朴な疑問についてもお答えしています。経験者として実際には勧められない製品にも触れているので、初めてのモニタースピーカー選びの参考にしてみてください。
モニタースピーカー選びのポイント
はじめに
モニタースピーカーとは、音の解析を行うためのスピーカーのことだ。音楽制作や音響解析といったシーンで利用し、オーディオリスニング用途とは全く別の性格をもっている。
DTMにおいては必要不可欠であり、入門者だからこそ手を抜けない最も重要な機材だ。これがなければ曲は完成しない。数あるスピーカーの中から入門者ならどんなものを選ぶべきか、ポイントとなる点をまとめてみた。
①スピーカーの種類
まずスピーカーには「パッシブスピーカー」と「アクティブスピーカー」がある。
パッシブスピーカーは外部アンプで増幅したサウンドを再生するが、アクティブスピーカーはアンプを内蔵しており電源を接続して利用する。
DTM用の主流は小型アクティブスピーカー
まずパッシブスピーカーはベストな組み合わせのアンプを見つけるのが難しく、そして設備も大掛かりになってくるため、DTM入門機としては不向きだ。最近の製品の殆どデスクトップサイズのアクティブ型である。
アクティブスピーカーにも2種類のタイプがある。
左右のスピーカーが全く同じで、それぞれに電源を必要とするタイプ。そしてアンプやコントローラを内蔵しているのは片方だけという片側アクティブのタイプがある。
おすすめなのは左右が同じ構成のアクティブスピーカー
アンプ回路部分は振動もすればノイズも生むし重量もある。小さな差だが、左右でのスピーカーの振動の仕方が変わってしまう。
モニター用途である以上、極力左右の差はなくしたい。
ツマミ等は左右両方をいじる必要があり、利便性とのトレードオフになるが、その程度なら慣れで解消できる。
②スピーカーの端子
入門者の場合は次の2つの端子があることを条件としよう。
RCA入力端子
多くの音響機器が採用している端子。
ミキサーやオーディオインターフェースでも多く採用されているので、汎用性をもたせるためにも優先度が高い端子だ。
フォーン端子
フォーン端子はノイズに強いバランス接続が可能なのでよく利用される。この端子の出力しか持たないオーディオI/Fも多い。
もし手持ち機器とスピーカーがバランス接続に対応しているなら、TRSケーブルで接続しよう。ギター用シールドケーブルではないので注意。
③価格感
安さに惹かれてしまいがちだが、モニタースピーカーはDTMの要中の要。ここを疎かにするとMIXスキル上達が遅れてしまう。
入門機は1本当たり1万円前後なので、その価格帯以上の製品で比較検討していこう。
④音質
実際試聴するのがベストだが、モニタースピーカーはオーディオ用と比べてなかなか出来る機会が少ない。
細かい点では好みもあるので一概には言えないが、小型アクティブ型で意識したいのは次の点。
低音がしっかり出ること
低音はスピーカーの大きさに比例する。本来なら大型スピーカーでしっかりと低音のモニタリングもしたいところだがDTMではそのスペースがない。
小型でも精確な解析を行うためには、中高域がクリアに出るのは当たり前として、いかに低域まで把握出来るかを意識したい。
小型の場合、完全にフラットな特性だと低域が見えづらい場合があるので少々強調気味でも良いだろう。
ただし過度なブーストは逆効果。基本的には各音域がフラットに聞こえる方がよい。
解像度と分離感が高いこと
モニタースピーカーは「聴いていてとても疲れる耳障りなサウンド」が理想だ。
中高域が分解されている機器は多いが、低域が滑らかになって=ぼやけている製品も多いので注意。
中高域はいざとなればモニターヘッドホンでも解析できるが、低域だけはそうはいかないので特に重視してほしい。
⑤評価・レビュー
モニター用途と無関係の評価、例えばPCオーディオ用途で買った人の評価などは必ず無視しよう。
音がフラット過ぎるとマイナス評価を下す人も存在する。モニタースピーカーはフラットなのが当然なのに、だ。
評価者がどんな用途で使っているのかはしっかり見極めよう。
おすすめのモニタースピーカー
【購入機】FOSTEX PM0.4n
筆者が購入したのはこちら。
タイトでメリハリのあるサウンドが特徴のモニタースピーカー。ハイレゾにも対応する。
入門機として長年愛されて続けている非常に有名な定番モデルだ。この価格帯ではトップレベルの音質。現行機種ではなくあえて本機を一番におすすめしたい。
このサイズとしては低音は鳴る方だが、サブウーファーも別に販売されているので足りない場合は追加するのもよいだろう。
なお0.3や0.5シリーズは全く別物と考えた方がよい。
YAMAHA MSP3
PM0.4nよりももっとフラットな特性をもつスピーカー。
MSPシリーズは業界のスタンダードとも呼べるNS-10M(通称テンモニ)の後継シリーズで、その中でも最も安いモデルがMPS3だ。
コンパクトかつリーズナブル、そして味付けのない音が特徴。少々レンジが狭いが、十分なクオリティだ。
さらに高い分解能やレンジの広さを求めるなら上位機種のMSP5 STUDIO(販売サイトへ)もおすすめ。
TASCAM VL-S5
ウーファーとツィーターで別々のアンプを用いるバイアンプ構成を採用している、このクラスでは少し珍しいスピーカー。
各々が電気的影響を受けにくいためユニットの潜在的な能力を引き出すことができ、理想的な再生が可能となる。
接続もXLRとTRSによるバランス接続に対応しており、電波干渉保護対策までされている点が非常に素晴らしい。
ADAM AUDIO F5
脅威の再生能力をもつモニタースピーカー。
スタジオ用として非常に人気の高いAXシリーズに引けを取らない性能で、エントリーモデルとして高い評価を得ている。
まず、52Hz-50kHzという広大な再生レンジに驚かされる。イコライザーノブとボリュームノブ、ハイパスフィルターとXLR/TRS/RCAインプットも一式揃えている。
破格のコスパでプロフェッショナルな制作環境を整えることができるスピーカーだ。
GENELEC 8010A
フィンランドのプロ向けブランドGENELECで人気のある8000シリーズの最小モデル。
非常にコンパクトだが、想像するよりもずっと豊かな低音の表現力があり、周波数のバランスがよい。
サイズからは考えられないほど優秀な性能を誇るオールラウンダーだ。
JBL LSR305
独自LSR設計により、指向性が広くリスニングポジションの自由度が圧倒的に高いスピーカー。
ポジションや顔の向きによる定位の差が非常に少ないにも関わらず、定位を把握しやすい。つまり設置する部屋や位置が変わってもモニタリングの正確性が損なわれない。
音はJBLらしく低音が豊か。大人し過ぎると感じる場合はEQで調整可能。
音場感や音像の大きさ、奥行きなど細部まで確認したいときに活躍する優れたモデルだ。
買うべきでないモニタースピーカー
FOSTEX PM0.3
各方面のレビューでとても評判よい、デスクトップスピーカーの代表的存在。高音質にも関わらず破格のコストで良いスピーカーだ。
ただし、あくまでPCスピーカーとして評価されているだけである。DTMerは本機は選ばない。
中にはモニタースピーカーとして推奨する意見もあるが、筆者は反対する。
実際サイズ感以上の低音も出る優れた製品だが、DTMでは低〜中域をモニタリングしきれない。
かなり良いスピーカーであることには違いないので、限られたデスクトップのスペースで最高のPCオーディオ環境を構築できる製品と捉えていただきたい。
BEHRINGER MS16
ベリンガーは廉価製品を多く販売している音響機器ブランド。
同社製品は全般的に低価格低品質なため要所に用いられることは余りない。
本機も安いが、PCスピーカーとしてもモニタースピーカーとしてもあえて選ぶ理由はない。
YAMAHA MS101 III
コスパ重視の初心者向け定番モニタースピーカー。
トーンコントロールや端子の多様性など機能面では魅力が光る。
だがしかし10Wと出力が低すぎるのがネック。そして再生周波数帯域も、必ず判別できるほどに狭く(可聴領域よりずっと狭い)、ミックスダウンやマスタリングには使えない。
この価格を出すなら、もう数千円で途端にグレードがあがるので、敢えて本機を買う理由はない。
よくある質問
周波数特性とは
スピーカーが再生できる最低周波数と最高周波数の範囲を示した値のことだ。
「50Hz〜35kHz(-5dB)」といった様に表記する。括弧内は許容出力変動幅と呼ばれ、その範囲での出力の変動幅を示す。
人間の可聴領域は20kHz程度までと言われているが、モニタースピーカーにおいては再生周波数帯域が広いものを選んだ方がよい。
クロスオーバー周波数とは
多くの小型スピーカーは、低域を担当するウーファー、高域を担当するツイーターなど複数のスピーカーを利用している。
このとき担当する周波数帯域が交差する点があり、それをクロスオーバー周波数と呼ぶ。
上図の様にクロスポイントとなる周波数では音圧レベルがフラットではなくなる。
良いスピーカーはクロスオーバー周波数の調整がうまく、低域から高域にかけて滑らかに音がつながる。
もしモニタースピーカーを試聴できるなら、段階的に音が上がっているような音源を用いて、そのスピーカーのクロスオーバー周波数を通過するポイントをよく観察すると良いだろう。
エージングは必要?
エージングについては賛否両論だが、筆者は「必須ではないが行った方がベター」という意見だ。
木製のアコースティック楽器奏者なら経験があることなのだが、その日最初に鳴らした音と、最後に鳴らした音は全く違って聞こえる。これは木が吸湿・脱湿を繰り返し、伸縮率が安定してくることの影響が大きい。
素材によって勿論異なるが、スピーカーもコーンや木製エンクロージャーを採用しており、非常に楽器に近い存在だ。
ただ実際ものすごくわずかな差なので重視する必要もないが、余力があれば毎回少し鳴らしてから使い始めるとよいだろう。
なお○○時間エージングして落ち着いたらそれ以降は二度と紙と木材の変化がない、ということはない。
スピーカースタンドは効果があるの?
モニタースピーカーはスピーカースタンドやインシュレーターを設置することを強くおすすめする。
設置箇所が共振して余計なノイズが乗ってくるためだ。これは入門者であっても必ず聴き比べることができる程の違いだ。
以下エントリーでおすすめのスピーカースタンドを紹介しているので参考にしてみてほしい。
- お気に入りのスピーカーをスピーカースタンドに置く必要性はあるのでしょうか。ハヤミやtaoc(タオック)、bose、YAMAHAなど多くのブランド製品があり、自作や代用という方法もあります。一体どんなスタンドを設置すべきな...
中古より最新機種?型落ちは?
PCや家電ならともかく、スピーカーにおいては現行機種にはあまり拘らない方がよい。ここ数年で評価の高いモデルを探そう。
まず後継機種が旧型よりも性能が劣っているなんてことはしょっちゅうだ。
部品の入手のしやすさやコストも変動するので、メーカーも同じ製品を生産しつづけることは困難であり、こうした事が起こるのは致し方ない。
これはつまり故障時のサポートの有無にも関わるが、廉価製品でなければ滅多に壊れることもないので音質を重視すればよいだろう。
ただあまり古くなると今度は音の趣向や制作環境など現代のDTM事情にそぐわなくなってくる。
例えば最近ではハイレゾクラスでの音楽制作が主流だが、古い機種はハイレゾ再生時の使用感はなかなか情報がない。
10年以上前くらいの製品になると希少価値によって途端に値段が上がる場合もある。
明確な基準がある分けではないが、新しさや古き良きのどちらに拘り過ぎるのも良くないということだ。
バランス接続って?
音声信号の+部分をホット、その逆相をコールドと呼ぶ。
また芯線をノイズから守る金属膜シールドをグランドと呼ぶ。
ホット、コールド、グランド用に3本の線を使用する接続方法を「バランス(平衡)接続」と呼ぶ。
これに対し、ホットとグランドのみの方法を「アンバランス(不平衡)接続」と呼ぶ。
バランス接続はノイズに強いが、複雑になるためコストが増す。
アンバランスはノイズに弱いが安価だ。
モニタースピーカーの接続は出来ればバランス接続が望ましい。オーディオインターフェースの対応可否もあるので、その点もよく確認しておこう。
フォーン端子の中にもバランス接続できるTRS端子があるが、ギター用ケーブルはTS端子を採用しておりアンバランス接続だ。形状が似ているので注意してほしい。
併せてオーディオインターフェースも検討している方は次のエントリーも参考にしてみてほしい。
- 楽器やスピーカーをPCに接続してDTMや実況を行うにはUSBオーディオインターフェースが必要です。ヤマハやローランド、ZOOMといった有名メーカーから多様な製品が販売されていますが、これから初めて手にする方におすすめの製...
モニターヘッドホン・イヤホンではダメなの?
絶対にダメということはない。
最近は音楽制作のスタイルも変化しつつあり、カフェでスマホで制作する方やDJのサンプルをチェックする方が増えて来ている。そうした利用シーンでは特にモニターイヤホンの需要は高い。
簡単なボリュームレベルやパンニングの調整、トラックボール付きマウスもあればエンベローブ編集もスムーズなので、土台作りは実際可能だ。
中には全て完結させる方もいるが、多くの方は途中まで。細やかなイコライジングを行うには、全く出来ないことはないが特に低音に関して少々難しい。
基本的にスピーカーより情報量の少ないヘッドホンでの制作は入門者向きではないということは認識しておいてほしい。使い分けるのが最もおすすめのスタイルだ。
もしヘッドホンの利用頻度が高そうな方は次のエントリーを参考に併せて検討してみよう。
- 音楽製作現場で使用されるモニター用ヘッドホン・イヤホンをご紹介します。ミュージシャンやサウンドエンジニアがモニタリングを行うために、高い解像度と高音質が求められる業務用としての扱いですが、リスニングにも使えるオールラウン...
まとめ
作った曲を人に聴かせられる質までもっていくにはモニタースピーカーが必要不可欠だ。
まともなスピーカーがなければ、まずMIX技術を磨くことが出来ず、MIXが出来なければ曲は仕上げられずお蔵入りとなる。
モニタースピーカーは簡単なトラックメイクをする分には必須ではないかもしれないが、曲を完成させるためにはどうしても欠かせない存在なのだ。
MIXに関してはまずはじめのうちはスペクトラムアナライザを見ながらイコライザをいじって音の変化を知るといいだろう。また好きな曲がどういった傾向にあるのか分解してみたり、それと自分のMIXと対比してみて、好きな傾向に寄せられるように練習していくとよいだろう。
ある程度品質がよく長く使えるスピーカーを手に入れて、きちんとスキルアップしながら音楽制作を楽しもう。